大判例

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仙台高等裁判所 昭和61年(ラ)31号 決定

抗告人

有限会社ポルシェ

右代表者代表取締役

古川武

右代理人弁護士

小野允雄

相手方

株式会社みちのくジャパン

右代表者代表取締役

小原寛

右代理人弁護士

松倉佳紀

主文

原決定を取り消す。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。相手方の移送申立を却下する。抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求めるというのであり、その理由の骨子は、「原決定は、本件売掛代金請求訴訟の管轄裁判所に関する合意条項を定めた、加盟契約書三〇条に、『地区本部の所在地の裁判所を第一審の管轄裁判所とすることをあらかじめ合意する。』とあり、同契約書の末尾に地区本部として相手方の表示がなされていることを理由に、合意管轄裁判所を定める基準となるべき『地区本部』の所在地を、相手方本店の所在地と判断して事件を、その所在地を管轄する盛岡地方裁判所に移送する旨の決定をしたが、右見解は正当でない。すなわち、右合意管轄裁判所を定める基準となるべき地は、ほつかほつか亭青森地区本部としての株式会社みちのくジャパンなのであり、相手方本店の所在地は問題とされていないのである。青森地区本部としての株式会社みちのくジャパン(青森市中央一丁目二四の四所在、昭和五七年六月設置)は、本件加盟契約がなされた当時すでに存在し、岩手地区本部としての株式会社みちのくジャパンと併存しており、相手方は、株式会社ほつかほつか亭総本部から、双方の地区本部について、加盟契約に基づく代理店棟の権利の附与を受け、権利主体として、各地区本部ごとの業務を行つていたのである。このことは、相手方から抗告人に届けられた郵便物(疏乙第二号証の一)の差出人欄に青森市内の前記所在地が表示され、また、相手方の従業員である阿部正之の名刺(疏乙第七号証)にもみちのくジャパングループとして岩手、青森地区本部が掲記されていること、本件の加盟契約の締結には相手方の青森営業所の職員である小野某が関与し、さらに、青森県内の店舗の巡回指導等も右青森地区本部が行つており、損益計算書も同地区本部に提出されていることからも明らかである。したがって、合意による管轄裁判所を定める基準地は青森地区本部としての株式会社みちのくジャパンの所在地(青森市内)である。かりにそうでないとしても、相手方は、青森市内に営業所を有し、かつ自ら青森地方裁判所に訴えを提起したのであるから、もはや移送の申立をなしえない。」というのである。

二記録によれば、相手方(原告)は、本件訴えを昭和六一年二月一四日原裁判所に提起したこと、原裁判所は同年二月二四日第一回口頭弁論期日(同年三月二七日)を指定したこと、本件訴えの訴状及び第一回弁論期日呼出状は同年二月二五日抗告人(被告)に送達されたことが認められる。

右によれば、かりに、原決定のいうほつかほつか亭フランチャイズシステムチェーン加盟契約書第三〇条に定める合意管轄が専属的合意管轄の性質を有するとしても、相手方(原告)は、その合意が存するに拘らず相手方(原告)の主張によれば合意管轄の管轄裁判所でない原裁判所に本訴を提起することにより、自ら積極的に右合意に拘束されない旨を明示したものというべく、少くとも前記説示のとおり本訴の提起に応じ抗告人(被告)に対し本件訴状及び第一回口頭弁論期日の呼出状が送達されるに至つた段階においては、抗告人(被告)において、右合意管轄の効果を主張することは格別、相手方(原告)は改めて、前記合意管轄の効果を理由として管轄違いによる移送の申立てをすることは許されないと解するのが相当である。けだし、管轄の合意に関連するような訴訟法律行為は訴訟当事者及び裁判所と関連し、訴訟の出発点に関するものであり、法的安全性が望まれるから、反対当事者にその訴訟法律行為が到達した以上、徒らにこれを撤回することが許されないと解すべきであるからである。

このことは、本件のように、当初当事者本人(相手方代表者)が、まず本訴を提起し、後に、専門家である弁護士たる訴訟代理人が事件に関与して、態度を変更しようとする場合であつてもその理を異にするいわれはない。

したがつて、相手方(原告)は前記合意に基づき、自ら提起した本訴訴えについて、管轄違いを理由として、原裁判所に移送を申し立てることができないというべきところ、これと異なる原決定は失当であるからこれを取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官奈良次郎 裁判官伊藤豊治 裁判官石井彦壽)

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